ただ、それだけでよかったんです


『ただ、それだけでよかったんです』(松村涼哉著/電撃文庫)★★★★☆

ただ、それだけでよかったんです (電撃文庫)
ただ、それだけでよかったんです (電撃文庫)

2016年2月刊。
第22回電撃小説大賞「大賞」受賞作。
これはまたすごい新人作品が生まれたものです(;`・ω・)
あるクラスで発覚したイジメ。その先に起こった少年の自殺。
イジメを行ったという「悪魔」自身の語りと、自殺した少年の姉による聞き取り調査によって、事件の裏に隠された真実が少しずつ明らかにされていく物語です。
誰が何を知っているのか、何を隠しているのか、何をしようとしているのか。
不気味な雰囲気に怖気づきそうになりながらも、好奇心に追い立てられ、先を読まずにはいられなくなる作品でした。
スクールカーストものとして凄まじい衝撃を与えられましたが、感動はしないかな。
むしろ疲弊感と虚無感に苛まれていますが、とても読み応えのある面白い作品でした。
そして読後に改めて見ると、タイトルが息苦しくてたまらないですね・・・・・・。
これは単巻ものだと思われますが、今後に注目したい新人さんです。

☆あらすじ☆
ある中学校で一人の男子生徒Kが自殺した。『菅原拓は悪魔です。誰も彼の言葉を信じてはいけない』という遺書を残して――。
自殺の背景には”悪魔のような中学生”菅原拓による、Kを含めた4人の生徒への壮絶なイジメがあったという。だが、Kは人気者の天才少年で、菅原拓はスクールカースト最下層の地味な生徒。そして、イジメの目撃者が誰一人としていなかったこと。彼らの接触の証拠も一切なかったことなど、多くの謎が残された。なぜ、天才少年Kは自殺しなければならなかったのか。
「革命は進む。どうか嘲笑して見てほしい。情けなくてちっぽけな僕の革命の物語を――」
悪魔と呼ばれた少年・菅原拓がその物語を語り始めるとき、そこには誰も予想できなかった、驚愕の真実が浮かび上がる――。
圧倒的な衝撃、逃れられない感動。読む人全てを震わせ4,580作品の頂点に輝いた衝撃作。

以下、ネタバレありの感想です。

 

ネット上で発覚した、ある中学校で起こっていたイジメ。
その後、いじめられていた少年の一人岸谷昌也が自殺し、彼の遺書で「悪魔」と名指しされた菅原拓は学内でも学外でも強烈なバッシングを受けることに。
そんな中、昌也の姉・香苗は事件の真相を知るために、友人・紗世の協力を得ながら、事件の関係者に少しずつ話を聞いていくのです。

 

物語は、香苗が行う関係者へのヒアリングと、事件前後の菅原拓の回想を交錯させつつ、一連の事件に関わる様々な謎を少しずつ紐解いていきます。

 

スクールカーストやイジメを扱う作品は数あれど、この作品の特色はその原因の一端が学校側が実施する「人間力テスト」にあるという点。
人格面に対する評価を数値化し、順位付けする。しかもその評価を中学生同士の間でやらせるというのだから、なんとも恐ろしい制度です。
こんな制度のもとで、どうして正常な人間関係が築けると思えるのだろう。
物語の中で「世間的に肯定されている」という前提には、ちょっと首を傾げてしまいました。まぁでもコミュ力重視の傾向は否定できないからあり得る、のか?

 

制度によって格付けし合わなければならない中学生達は「他者の目」に怯え、多数派に迎合し、「空気」を読んで自分の意見を殺してしまいます。
そうしなければ点を得られず、順位が下がるから。それは人格そのものの否定につながるものだから。
石川琴美やクラスメイトたちのSNSに象徴される、この共有された価値観こそが一連の事件の鍵を握っていくのです。

 

終盤に明かされる価値観を逆手に取った行動には意表を突かれましたが、そこに説得力を感じたのは、彼らの価値観自体が(程度の差はあれど)現実に存在するものだからなのでしょう。
石川琴美の言う「友達は重たい」という言葉は胸に刺さるものがありましたし、保身のために多数派に迎合、なんて敢えて触れるまでもないレベル。
クラスメイトたちの狂騒を醜く感じつつも、それがいつでも自分に跳ね返りかねないものであることに心底ゾッとしました。

 

それはさておき。

 

制度によって歪んだ世界を「革命」によって壊そうとした菅原拓。
「革命」の動機については序盤で明かされていたものの、その背景にあった事情や具体的な狙いは最後までわからず、それが作品全体を謎めいた空気に包み、真実に対する不安感を煽っていたように思います。

拓は暴行事件によって何を引き起こしたかったのか。
イジメをしていたのは誰か、イジメに遭っていたのは誰か。
そして、一連のイジメの原因は、本当はどこにあったのか。

見えそうで見えてこない真相が早く知りたくて、ページをめくる手が止まりませんでした。
構成的にはテンポ良く進むし、特段焦らしている感じもないのに、好奇心を刺激するような展開の巧みさが素晴らしかったです。

 

それにしても終盤の拓による怒濤の真相解明&糾弾は読んでいて本当に辛かった。
彼の口からこぼれる「ただ、それだけでよかったのに」という言葉の息苦しさといったら、もう(´・ω・`)

中学生らしいとも言える浅はかな行動で、他者を追い詰めてしまった「彼ら」。
「嘲笑して欲しい」とありましたが、誰にそんなことができるんでしょうね。私には無理です。

しかし彼らの行動の結末をどう見れば良いのかについては、未だうまく整理できていません。
色々と報われた部分があったとしても、最初から示されていたバッドエンドが揺らいだわけではないのですから。
2通目の遺書についても「ああ、なるほど!」と驚きはしましたが、なにもそんな形で救わなくても・・・・・・。

 

なんだかモヤモヤして、やりきれない気持ちがわだかまる読後感。
それでも、この歯痒いまでの不器用さが愛おしくもあるのです。
誰か彼の心に寄り添って慰めてあげて!と思ってしまうからこそ、紗世の存在によって物語そのものに救いを感じるのでしょう。

 

凄い作品でした。とても面白かったです。
松村涼哉さんの次回作も非常に楽しみです(*゚▽゚)ノ

ただ、それだけでよかったんです (電撃文庫)
松村涼哉
KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
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「ただ、それだけでよかったんです」への2件のフィードバック

    1. 茶一こりんさん、コメントありがとうございます。

      いやホントですよ。新人作品はたまにこういう衝撃の作品が出てくるので侮れません( ;´Д`)

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