思い出のとき修理します3 空からの時報


『思い出のとき修理します3 空からの時報』(谷瑞恵著/集英社文庫)★★★★☆

思い出のとき修理します 3 空からの時報 (集英社文庫)
思い出のとき修理します 3 空からの時報 (集英社文庫)

優しい時計職人さんがいる修理専門の時計店。
そこへ訪れる人々の様々な「思い出」が語られる連作短編シリーズの第3巻です。
巻を重ねるにつれて谷さんの一般小説作家としてのスキルアップを感じます。
ファンタジーである前作以前の名残が強く感じられた1巻、付き合いたての恋人達の初々しさにときめく2巻、そして、これまで以上に「家族」という形の内側に踏み込んだ「思い出」が語られる3巻。
どれも優しくて温かな雰囲気に満ちたものでありながら、その中にほんのりとスパイスをきかせるように暗く重たい人の負の感情が混じるところがとても谷さんらしいというか。今巻は特にハッピーエンドとは言えないほろ苦い結末が多くて、思わずため息が出てしまうような読後感でした。でもこういう話も好きです。
恋敵登場!?という流れにドキドキしたものの、読み終わって一番に思うことは秀ちゃんかっこよすぎるということだけでした。

☆あらすじ☆
穏やかな交際を続ける明里と秀司。ある日「秀司の時計店を女が手伝っている」と教えられた明里は、店で骨董店の娘・郁実と出会う。東京での仕事を辞めて帰ってきたという彼女は、商店街のお祭り準備で秀司が不在がちの今だけ、店番をしているのだという。自分と境遇の似た彼女に共感を覚えつつも、秀司との関係に少しだけ不安を感じて…。切なく温かく、心を癒やす連作短編集、シリーズ第3弾。

以下、ネタバレありの感想です。

 

「星をさがす人」
レッテルというものは、周囲以上に自分自身が気にするものなのだと思います。
一度貼られたレッテルをなかなか剥がすことはできないものです。周囲も剥がしてくれないし、自分自身も早々に諦めてしまうんですよね・・・・・・。
3巻最初のエピソードである「星をさがす人」には、そんなレッテルに囚われてしまった3人が登場します。
不良のレッテルを貼られた男子高校生と、優等生のレッテルを貼られた同級生、そしてそのレッテルを鵜呑みにして保身に走った自分を嫌悪する女子高生。
3人の誤解、すれ違い、諦念が生んでしまった一つの結末は、十年経っても彼らの心にしこりのようにわだかまったままでした。
秀司と明里が解きほぐした彼らの関係は、この先交わることはないのかもしれません。それでも「レッテルは剥がすことができるし、誤解は解くことができる」という一つの証明がきっと彼らを前に向かせる力になるのではないでしょうか。
立ち直った川添はきっと明里の手で好青年になっているはず。ちょっと見てみたいですね。

 

「コスモス畑とからくり人形」
この話はとても苦かったです。
叔母の話で気になりはじめた明里のもとに、太一が持ってきた1枚の幼い絵。同じ頃に現れたのは実父と同じ年代の、娘を探しているという佐伯と名乗る男。
3巻は「家族」、特に「父」が全体のテーマになっていると感じましたが、その序章のようなエピソードでした。
すれ違いの果てに生き別れてしまった父と娘はやり直すことができるのか?
死んでいたと思っていた実父の存在に戸惑う明里の前に突きつけられた一つの答えはほろ苦さの残るものでした。
父と娘のどちらの心にも「思い出」はちゃんと残っているのに、娘は父を「幽霊」としたまま。
関係は戻らなくても、思い出を胸にそれぞれの人生は続く、というのは一つの在り方なのでしょうけれど、私にはとても悲しいものにみえてしまいました。
明里もこの時点ではまだ実父への想いを整理できずにいて、一方で義父との絆は再確認していたりして。
「家族」って何だろう?血のつながりって何だろう?と思わず考えてしまうエピソードでした。

それはともかく郁美さんがアップを始めたようです。ドキドキ・・・・・・

 

「逆回りの時間」
来ました、郁美さんのターン。
一つ前のエピソードから不穏な空気を発していた郁美さんの事情が語られるエピソードです。
「家族の在り方」という価値観の違いが生んだ不幸なすれ違い。
結婚って当人同士だけの問題じゃないんですよね・・・・・・相手の家族を自分の家族として見るってどういう感じなんでしょうか。想像がつかない(;・∀・)
郁美さんの過去を知って、自分を見つめ直した明里。それを優しく受け止める秀司。
郁美の過去も、明里の抱える結婚と家族への複雑な感情も重たいものでしたが、秀ちゃんが格好良すぎて癒されました。
秀ちゃんは史上稀に見る癒し系ですよもう。あり余る包容力の破壊力が・・・・・・っ!
あと郁美さんは散々波風を立てていましたけど、別に恋敵じゃなかったんですね。まぁ、僻み根性で恋人の関係にヒビを入れようとするって、それだけで嫌な奴ですけど。

 

「さよならカッコウの家」
個人的に一番切なく感じたエピソードでした。
自分たちをカッコウにたとえた姉と弟の話を軸にしつつ、ここでようやく明里の実父の話が語られます。
血がつながっているから家族なのか、そう思いたいから家族なのかそういう問いかけが聞こえてくるようでした。
死んだと聞かされていた実父の危篤を知って、他人事のように感じつつも動揺してしまう明里。
実父を実の父以上に慕う伸也の話を聞くことで、ようやく明里は「家族」への自分の感情を整理できたのでしょう。
実父の存在を考えまいとするあまり秀司を「家族」に紹介することためらったり、彼と作るであろう「家族」を考えまいとする冒頭の明里からすれば、かなりの成長ですよね。
秀司との穏やかな関係に波風を立てたくないという気持ちは良く理解出来るのですが、今回の明里はとてももどかしかったので最終的にちゃんと前を向いてくれてほっと安心しました。

 

今回もとても素晴らしい連作短編集となっていました。
ひとつひとつのエピソードはもちろん、秀司と明里の恋人らしい甘い雰囲気も最高でした。
秀ちゃんほんと格好いい・・・・・・そして細かな気配りと穏やかで深い愛情に癒されます。
壁ドンが流行ってますけど、世間はこういう癒し系男子にもっと注目すべきだと思うんですよね!(๑•̀ㅂ•́)و✧

4巻も出るかな?秀司が明里にまだ時計を贈ってないので、少なくともあと1冊は出そうです。出ますよね?出ると信じてます。
明里と秀司が結婚して夫婦になってもシリーズは続けられそうですけどねー・・・・・・でも結婚がシリーズの終着点になりそうな予感。
まぁ谷さんの本が読めればそれだけで幸せを感じる信者なので、このシリーズであろうとなかろうと次の1冊を読むのを楽しみに待っていようと思います。
というか直近で新作2冊(単行本「拝啓彼方からあなたへ」と「異人館画廊」2巻)を読む予定なので、今からホクホクなのですけどねヾ(๑╹ヮ╹๑)ノ”

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