いなくなれ、群青(階段島シリーズ1)


「いなくなれ、群青」(河野裕著/新潮文庫nex)★★★★☆

いなくなれ、群青 (新潮文庫)
いなくなれ、群青 (新潮文庫)

「いなくなれ、群青」は階段島という孤島に「捨てられた」人々の物語。
青春小説ですがSFっぽい印象を受けました。少し不思議系。
外へ出ることのできない階段島。階段島を訪れる直前の記憶を持たない「捨てられた人々」。
彼らが島を出るためにみつけなければならない「失くしたもの」。そして、階段島を管理する「魔女」。
不思議なキーワードが飛び交い、少年と少女の再会をきっかけに「階段島」の真実が明らかになっていきます。
作品のテーマに少しだけ寂しい気持ちになるけれど、少年たちの斜に構えた青臭さが心地よい作品でした。

☆あらすじ☆
11月19日午前6時42分、僕は彼女に再会した。誰よりも真っ直ぐで、正しく、凛々しい少女、真辺由宇。あるはずのない出会いは、安定していた僕の高校生活を一変させる。奇妙な島。連続落書き事件。そこに秘められた謎…。僕はどうして、ここにいるのか。彼女はなぜ、ここに来たのか。やがて明かされる真相は、僕らの青春に残酷な現実を突きつける。「階段島」シリーズ、開幕。

以下、ネタバレありの感想です。

 

物語の舞台は、外界から隔絶した孤島「階段島」。
そこでは「捨てられた人々」が穏やかな生活を営んでいました。通販くらいしか外とつながりを持てず、だけどなぜかインフラもしっかりしている不思議な空間。

 

主人公は「魔女」が管理するこの島に、他の人々と同じように閉じ込められている少年・七草
彼は、ある日そんな階段島で、同級生の少女・真辺由宇と再会します。

 

島から出ることを望む真辺。
彼女と行動を共にすることになる七草の視点で「階段島」の真相に迫るという形で、物語は展開されていきます。

 

島で唯一の学校に通う同級生たち、島の大人たち、由宇の後に現れた島で最年少の少年。
由宇と七草が出会う島の人間はみんなどこかちょっとだけ普通じゃなくて、島そのものも知れば知るほど普通じゃなくて。
それでも不思議と穏やかな時間が流れる階段島。

 

しかし、「星とピストル」が階段に描かれるという連続落書き事件が起こることで少しだけ島はざわめき、物語が動き始めるのです。

 

落書き事件の真相も、島の真相も、大きく予想を外れる展開とまではいきませんでしたが、それらの背後にあった七草の青臭さに苦笑してしまいました。良い意味で。
「失くしたもの」「捨てられた人々」というキーワードが意味するものは、私には「大人になること」のように感じられました。
あるいは「成長すること」「前へ進むこと」でもいいかもしれません。
七草は自分自身についてはそれを受け入れたのに、真辺については受け入れられないというところが、なんというか可愛かったです。
理想主義者はどっちなんだろう。

 

真辺の極端な理想主義は、本当に七草との再会だけが原因で捨てられたんでしょうか。
普通にものが見えて、普通に耳が聞こえて、周囲から浮いていることも、それが自分の言動のせいであることも、それを七草がフォローしてくれていたこともちゃんと理解していた真辺。
「馬鹿」じゃない彼女であれば、それがどれほど生きづらいことなのかちゃんとわかっていたはず。
七草との再会は、彼女にとっていい成長のきっかけだっただけなのかもしれません。
理想主義を捨てることが大人になること、というのは少し寂しいですけど。
それを真辺が選択したことを七草が受け入れられない気持ちもわかりますけどね。

 

人が生きていく上で、自分の中の何かを捨てることも必要なことなのかもなぁ、ってぼんやりと考えてしまいました。
その何かが大事なものなのかどうかはわかりませんが、七草にとっては大事なものだと思えたんでしょう。
彼が理想とする「綺麗な真辺」でいてもらうためには。

 

少年の、ちょっとした青臭いエゴイズム。これぞ青春です。
そして、そんな七草の想いや行動に対する真辺の返答が爽快でした。
「私たちがそのまんまじゃ上手くやっていけないなんて、信じたくない」という彼女のセリフは、七草との折り合いをつけるために理想主義を否定した現実の自分への宣戦布告であり、勝手に諦めた七草への宣戦布告でもあるように思えました。
どいつもこいつも勝手に決めんな!てね。
いいですね、これもまた青春です。

 

「理想主義の真辺」と「悲観主義の七草」のまま、階段島に残ったふたり。
「階段島シリーズ、開幕」とあったのですが、続きが出るってことでしょうね。階段島の真相は明らかになったのにどう続けるんでしょうか?七草と真辺の物語が続くのか、それとも別の誰かの物語が始まるのか。
どちらにしても続きがでるなら、楽しみです。

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