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『know』(野崎まど著/ハヤカワ文庫JA)★★★★★

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もしどんなことでもすぐに「知る」ことができる世界になったなら、人は何を知りたいと思うのでしょうか。
初心者でも入り込めやすい世界観のSFですが、その根底にある哲学に読み終わってからもぼんやりと考え込んでしまいました。素晴らしい作品だと思います。最後の一文を読んで、大きく息を吐き出してしまうような読後感。最高です。

☆あらすじ☆
超情報化対策として、人造の脳葉“電子葉”の移植が義務化された2081年の日本・京都。
情報庁で働く官僚の御野・連レルは、情報素子のコードのなかに恩師であり現在は行方不明の研究者、道終・常イチが残した暗号を発見する。その“啓示”に誘われた先で待っていたのは、ひとりの少女だった。道終の真意もわからぬまま、御野は「すべてを知る」ため彼女と行動をともにする。
それは、世界が変わる4日間の始まりだった―

以下、ネタバレありの感想です。

 

現代でも問題となっている情報格差。
普段の生活のなかでも、パソコンやスマホを使いこなせる人と全然使うことのできない人の間にはその情報量に大きな隔たりがあります。実感する場面も多いのではないでしょうか。

 

「know」はそんな情報格差がシステムとして社会に組み込まれた未来の日本が舞台となっています。
電子葉を持つ人々が、クラス0からクラス6までに分けられたヒエラルキー。その頂点に近いところにいるのが主人公の御野・連レル

 

ほぼ全ての情報を手にすることのできる立場にある彼が恩師の「啓示」に導かれ出会ったのは、存在しないはずの「クラス9」道終・知ルでした。

 

冒頭では一般市民とは違う情報量を保有する自分についてエリート特有の優越感を滲ませていた連レルですが、自分より上位の知ルの真意がわからず混乱したまま行動を共にしていきます。

 

「知る」ということは人間の本質的欲求なのだ、と言いながら自殺した「先生」の真意は何だったのか。
「クラス9」であり、アクセスできない情報はない知ルが「知りたいこと」は何なのか。彼女が4日後に会う約束をしているという人物は誰なのか。

 

住職から知識を吸収したり、曼荼羅を見たり、京都御所で古い書物を読んだり、同じクラス9との対話に臨んだり。
知ルが何を知りたいのか分からない一方で、彼女の卓越した情報技術が全知全能に限りなく近いことが読者に印象づけられていきます。素月や特殊部隊と対峙する場面での知ルは、もはや人間とは別の次元にいるかのようでした。

 

では、そんな彼女が何を知りたいのか。
人間が最後の最後に知りたいことなんて、どの時代のどんな人間であっても変わらないんでしょうね。

 

死後の世界。
死んだら人はどうなるのか。
死ぬ直前に人は何を考え、何を見るのか。

 

自分が死んでしまったら、今ここでいろんな事を考えている「自分」という何かはどうなってしまうんだろう。そんな風に考えに考えて眠れなくなったこともあったなぁ、と思い出してしまいました。
臨死体験とか死後の世界を語る人がメディアで取り上げられても、結局は自分が死ぬまさにそのときまで正解なんてわからないんですよね。だから怖いし、知りたいって思うんでしょう。それは自分だけじゃなくて誰であってもそんなものなんだろうなぁ、とこの作品を読んでいて感じました。
知ルが最後の最後に知りたかったこと、それを知って戻ってくることができたのかどうか。不治の病に冒された少女が笑いながら死後の世界に言及するシーンがその答えなのでしょう。

 

ただ、私はあのラストになんとも言えない気味の悪さを感じてしまいましたが。
死を恐れ、それを悼む気持ちを持たなくなった人間は今の人間とは違うモノになってしまうんじゃないでしょうか。
死後の世界なんて、知らないほうが人間らしくいられるのかもしれません。「全知」なんてものは神様に任せたほうがいいんですよ、たぶん。

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