精霊歌士と夢見る野菜1


『精霊歌士と夢見る野菜』(永瀬さらさ著/角川ビーンズ文庫)★★★☆☆

精霊歌士と夢見る野菜 (角川ビーンズ文庫)
精霊歌士と夢見る野菜 (角川ビーンズ文庫)

本作の注目すべきところは、ファンシーな表紙を裏切って主人公の醜い心の内側をハッキリ描いている点でしょう。
ここまで嫉妬とかの黒い感情モロ出しの少女小説ヒロインってなかなかいない。
私は少女小説には夢を求める傾向にあるため(少年向けだと逆に黒い感情が欲しくなる不思議)、冒頭からしばらくこのヒロインを読むのがきつかったです。
ただ、ある程度主人公のキャラをつかむと残りは面白く読むことができました。
ヒモ根性のヒーローも、当初は苦手だったものの、かっこいい見せ場が出てきてからはそこまで拒否反応はなかったかな。

☆あらすじ☆
精霊の力を借りた歌で、あらゆる植物を実らせ、王国を支える『精霊歌士』。メロウは、その登竜門であるムーサ音楽院合格を夢見ていた。けれど、彼女は野菜しか育てられない落第生。しかたなく相棒のラヴィと共に、新天地で見習い修業をはじめるメロウだが、とんでもない理由で自主退学したという首席、天才青年エイディが現れ、いきなり同居することに!?王道ファンタジーの大本命!第11回小説大賞、奨励賞&読者賞W受賞作!!

以下、ネタバレ感想です。

 

ヒロインメロウはムーサ音楽院の入試に落ち、予備学生として働きながら精霊歌士の資格取得を目指しています。
試験に落ちた理由は、本来どんな植物をも歌で育てられなければならないのに、彼女は野菜しか育てられないから。

 

そんな欠点を抱える彼女のもとに現れたのはムーサ音楽院史上最高の天才であるエイディ
睡眠を愛してやまない自堕落な理由でエイディがメロウの家に転がり込んできた時点で、「あ、このヒーロー受け付けないかも・・・・・・」と不安になりました。

 

怠惰なヒモのエイディをよそに、野菜屋をはじめるメロウ。
ここで面白かったのは、精霊歌士の力がないと植物が育たないにもかかわらず、野菜だけは大量生産の技術が確立し精霊歌士自らが育てたものより安価なものが流通しているという世界観。
よく理解していたはずのメロウもあっけなく返り討ちにあい、少しやるせない気持ちになりました。

しかしそこで諦めずにエイディのアドバイスを受けて、メロウは総菜屋を始めることに。
そこから先の紆余曲折は、もう何の小説を読んでいるのかよく分からなくなるレベルでしたが、何にせよ負けん気の強いヒロインにひっぱられて勢いで読めました。

 

どうにかこうにか、試験までこぎつけたメロウ。
しかし、メロウが試験官の前で禁じられた〈なれの果て〉。咲かせてしまったことによって、またも困難が彼女を襲うのです。

この〈なれの果て〉に関する騒動の顛末は少し拍子抜けするものでしたが、事件解決に尽力したエイディは冒頭のヒモっぷりから見事に名誉挽回。少女小説らしいヒーローになりました。

 

そんな〈なれの果て〉事件よりも印象が強かったのはヒロインのどす黒い感情。
もう〈なれの果て〉騒動の印象とか薄れるレベル。
これまでも腹黒ヒロインが主人公の小説とかはあったものの、ヒーローに対して凄まじくライバル意識をめらめらと燃やすヒロインってちょっと思いつかないです。
可愛らしく「彼には負けない!」レベルならともかく、本作のメロウが見せる「嫉妬」の感情はあまりにも生々しくてびっくり。

 

野菜しか作れない自分と、全てに恵まれたエイディ。
しかも自分は女王に見捨てられた存在、という負い目がメロウにはあるわけで。
女王関連のフォローが一切入らなかったのには驚きました。
メロウの、母である女王への憎しみの感情がすごかったですね。
なんというか、ひたすら黒い。
普通の少女小説的ヒロインぽいところが多いだけに、時折混ぜられる暗いメロウの感情にどきりとしました。

 

さすが新人さんという感じです。こ慣れていない生々しい感情があったように思います。
タイトルや表紙のファンシーさはどこにいった?というくらいアクの強い作品でした。

 

2巻も近日発売予定。
ほとんど糖分のなかった(むしろ塩分強め)本作ですが、次回以降どうなるのか。このまま黒いヒロインでいくのもありかと思います。

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