マイワールド


『マイワールド』(十文字青著/星海社fictions)★★★☆☆

マイワールド (星海社FICTIONS)
マイワールド (星海社FICTIONS)

十文字青最新作。Twitterで宣伝されていた表紙が美麗すぎたので積読本そっちのけで読んでみることに。
表紙と挿絵が、十文字青さんの独特な世界観にとてもマッチしていました。挿絵の1枚1枚が表紙にできそうなクオリティです。ほんとすごい。
物語自体は十文字青節炸裂です。いつもながら謎の中毒性。そして前半は私の高校時代のトラウマ(てほどでもない苦い思い出)を大いに刺激してくれました・・・

☆あらすじ☆
北の街で暮らす高校生・乾真冬。入学当初に友達作りに失敗し、灰色の学校生活を送っていた真冬だが、押しの強い先輩・押領司姫香に無理矢理入部させられた放送部で、同じように強制的に入部させられた同級生・由切園と出会う。
たどたどしくも、次第に距離を詰めていく二人。しかし、ある夜、由切は謎めいた言葉を残して真冬の前からこつ然と姿を消してしまう……。
彼女はどこに消えてしまったのか? その姿を追い求め、真冬は異郷の地に旅立つ──。
無限の世界を彷徨うすべての人に贈る、哀切の青春譚。

以下、ネタバレありの感想です。

 

「真冬は異郷の地に旅立つ」って、そのままの意味だったんですね。
あらすじ読んだときには比喩かなんかだと勝手に思ってました。

 

物語は前半と後半でかなり雰囲気が変わります。
舞台が変わるのと、兄ちゃんが全面に出てくるせいじゃないかと・・・・・・。

 

前半は、友達を作るのが苦手な真冬が放送部に入部し、同時入部のクラスメイト由切園と次第に仲良く(?)なっていく過程を描いているのですが、これが私の高校時代の黒歴史をモロに呼び起こして衝撃を受けました。

 

新しい環境に適応するのって、タイミングを外すとほんとにうまくいかないものですよね。
チャンスはいくらでもあるんです。ただ、そのチャンスで選び取った選択肢がまずいと挽回はどんどん難しくなっていくような気がします。
春秋が言うように、どんな可能性もあって、選び取るのは確かに自分の自由なんだけど、その可能性の選択肢の中には選ぶと苦難を引き起こすようなものも確かにあって、でも、選んだその時にはその結果は見えてない。
過去を振り返ったとき、もどかしい気持ちに苛まれるのはそんな選択肢を選んだ瞬間のように思います。

 

真冬の場合、父親が戯れに渡したモックアップのスマホをいじることで自分の孤独をごまかそうとしたのが、間違いの選択肢の第一歩。
最初に話ができて友達になれそうだったクラスメイトに、スマホがモックアップであることを打ち明けないという選択肢をとったのが間違いの二歩目。
ただ、彼は由切園を相手に1歩目の間違いの選択肢はとりつつ、二歩目は間違いませんでした。
誤りを修正する選択肢だって、いつでも与えられているんですよね。選ぶのが難しくなっていくだけで。

 

過去の誤りを踏襲しない選択をした真冬と由切園は、少しずつ距離を縮めていきます。
由切園は真冬に不思議な話を少しずつしていくのですが、このシーンの雰囲気がとても好きです。
ここで出てくる寓話的な物語はどれも素敵でしたけど、最初の髭の看護師と重量挙げ選手の話が一番お気に入りです。
私は自分の写った写真が嫌いで、どうにかマシに写れないものかと鏡に向かって笑う練習したことあったなぁ、て思い出しました。自分の笑顔を鏡で見るって、ちょっと気味が悪い瞬間ってありますよね(ないのかな・・・)

 

真冬の家庭はけっこうひどいレベルだと思うんですが(父はDV、母は浮気、兄はニート、妹は家出って実際家庭崩壊レベルだと思う)、由切園の家庭も相当居心地が悪かったようです。
高校生なんて、学校と家庭くらいしか世界がないのに、片方でもうまくいかなければ相当生きづらいはずです。
真冬も由切園も、その両方でうまくいっていなかったけど、真冬には(変態ちっくだけど)兄がいたのに対して、由切園には誰もいなかった。
その違いが由切園と真冬の別れを作ったのかもしれません。そう考えると、秋冬は彼自身が意図した通りに真冬をちゃんと守れていたんですよね。冒頭との落差に戸惑いが大きかったけど、弟妹想いの優しいお兄ちゃんです。

 

後半は、「朝がこない国」に行った後、偽物と入れ替わりに消えてしまった由切園を探しに行く話が展開されます。
前半からちょいちょい漂ってきていたファンタジー要素が一気にふくれあがります。ちょっとびっくりしました(笑)
ニートな兄ちゃんが手からビーム(?)出したり、猫がしゃべったり、ハードボイルド風な探偵が活躍したり。世界観もそれまでの日常から急転直下に非日常へ。

鮫猫に導かれ、偽者の由切園だった砂鳥、春秋、探偵、真冬の4人は「常闇町」へ潜入を果たします。テレビの森やバァ族、ゴートマンの支配する学校。異世界からの侵略者。

なんかこれだけで1冊作ってくれても良かったのに、と思わなくもない不可思議な世界観。
まさか冒頭の青春小説から一転、冒険物語になるとは、購入時には思いもよりませんでした。なかでもニート兄の春秋がチート化が一番衝撃的でした。

 

前半の壊れかけのような繊細な世界観に魅力を感じていただけに、後半の春秋の力強さや展開の激しさにちょっとついていけなかったところもありました。
でも、ラストで自ら囮になって弟たちを逃がした春秋の姿に感動したので、もういいです。
春秋、謎すぎたけど魅力的なキャラでした。冒頭との落差に戸惑ったけど、読み終えてみると彼の芯となる部分は全然変わっていないことに気付きました。帰ってくると良いなぁ・・・

 

真冬に助けられ、由切園も間違った選択肢を修正することができました。
環境は変わらなくても、自分の人生が自分のものであると開き直った彼女は、これから少しは生きやすくなるのではないでしょうか。
彼女と対照的に、自分の選択肢を修正しないという砂鳥の選択は切なかったです。砂鳥が一番報われてない気がする・・・

 

一番最後のシーン。
あれは、真冬は何度でも選択をやり直すことができる能力をもっているということなんでしょうか。
サイコロで同じ目を何度でも出せるとか、そんな伏線ありましたし。
間違った選択肢を修正して努力をすることが、人の成長につながることだと思うので、もし彼がそんな能力を持ったとしたら濫用しないように願うばかりです。
うらやましい能力ですが。いいなぁ、と正直思いますけど!笑

 

前半と後半で大きく空気の違う1冊でしたが、なぜか読み終えればちぐはぐな印象は薄れたように感じました。
全編を通して、「選択すること」を大きな要素にしていたからでしょうか。
ファンタジー要素の入った青春小説も良いのですが、十文字青さんにはぜひ非ファンタジーの青春小説も書いてほしいです。前半みたいなかんじで。
そういえば、この「マイワールド」は第九シリーズと類似しているらしいのですが、第九シリーズ読んだことないんですよね。今からでも手に入るかな?電子書籍化してくれたらすぐ読むのですが。

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