果てなき天のファタルシス


『果てなき天のファタルシス』(十文字青著/星海社FICTIONS)★★★☆☆

果てなき天のファタルシス (星海社FICTIONS)
果てなき天のファタルシス (星海社FICTIONS)

とても感想に悩む1冊です。
というのも、これは1冊完結なんですが、続きが読みたい。なんというか1冊だと物足りないというか。
いやでも1冊で終わってるからこそ良いんじゃないか、続いたら蛇足だろう、とかも思ってしまう。
読了後の喪失感というか寂寥感というか、何とも言えない気分にさせられる小説でした。
滅びゆく世界のなかで、晴れ渡る青空がとても印象的な作品です。
ちなみに、著者のあとがきはありません(けっこう楽しみだっただけに残念)が、解説はぜひ読んだ方がいいかと。作品への理解が深まるし、解説者の著者への愛が伝わってきて面白いので(笑)

☆あらすじ☆
空が青い。なんて青いんだろう──。
正体不明の敵・ファタルに蹂躙され、滅びに向かう黄昏の世界。人類に残された僅かな街の一つ、朧市では、少年少女までもが前線で命をかけて戦う。
記憶を失った主人公・大海八尋もまた、刀を手に、絶望的な戦いに身を投じてゆく。全てが不確かであやふやで、失われてしまうものであるとしても──それでも、世界は美しい。
異才・十文字青が同人誌『BLACK PAST』に発表し、話題をさらった長編を加筆訂正し、解説を加えて星海社FICTIONS化。解説・坂上秋成

以下、ネタバレありの感想です。

 

主人公・八尋は「事故」で記憶を失ったまま、幼なじみだというシユや、学校のクラスメイトたちと共に謎の生命体「ファタル」との戦いに身を投じていきます。

 

ただし、この小説のメインテーマはファタルとの戦いそのものではないように思えます。

 

ファタルとの戦争という非日常的で緊迫した状態の中で、記憶という「過去の自分」を失った八尋が、不安定なメンタルながらも必死に生きていこうと足掻く姿が描かれています。
戦況が悪化していき、明日は死ぬかもしれないという状況の中でも、八尋は恋をしました。同時に、恋した相手の過去すら知らない自分に戸惑いを感じてしまいます。
ある意味、日常においてなら当たり前な、そんな心の動きが、戦争という非日常の中では「生きている」主人公であることをとても印象づけます。八尋の恋は、千真の死という結末を迎えるだけに、余計にそう思えたのかもしれません。

 

千真の死から、事態は急展開を迎え、主人公たちは「朧市」を捨てて、近隣都市への移住を決断します。
でも、それは簡単なことなんかじゃなくて、道中でのファタルの襲撃により、市民や仲間が何人も何人も死んでいきます。

 

そんな状況の中で明かされるシユの正体。
表紙に出てるし、彼女がヒロインかと思ってたのに。
ある意味、彼女が非日常と日常の境界線だったのかなーとか思ったり。シユのポジションはちょっと自分の中で消化不良気味です。

 

個としての人格を持つという彼女が、同じファタルだと感じた八尋の正体は結局明らかになりませんでした。
花火の記憶があるから「八尋」なのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
自分の周囲の環境も、自分自身さえも空虚に崩れていく中で、ただ空だけが青く広がっている。
ラストの文章と挿絵は相乗効果的にとても印象的でした。このページ読むだけで、この本を手にとって良かったと思えるくらい。

 

「果てなき天のファタルシス」はこの1冊完結で、とても綺麗に終わっています。物語の世界がこれからどうなっていくのか気になるところではあるけど、まぁ、続き書いたら蛇足になりそうです。

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